
研究内容
「違い」を学びと価値創造のエンジンに変える。
理論、対話、そして社会実装の往還。
自己紹介

私はこれまで、広告会社の社員、NPOの代表や地方議員として、様々な社会課題に向き合ってきました。また現在は、株式会社まちのプロデューサーズの代表取締役として、地域の課題解決にデジタルの力を掛け合わせる事業を推進しています。産・官・学・NPOが越境して協働するプロジェクトを企画・実装し、「まちをもっと盛り上げる」ための仕組みづくりに取り組んでいます。具体的には、地域のデータの可視化や参加型ワークショップ、オンラインとオフラインを接続するコミュニティ運営、実証実験の設計、地域の特産品開発などを通じて、住民と行政、企業が同じ地図を見ながら解決策を共創できる場を整えてきました。
大学の外で行っているこうした実践は、キャンパス内の学びと相互にフィードバックし合う関係にあります。また、慶應義塾大学SFC研究所では上席所員として研究活動にも携わっています。これまでの経験で学んだのは、「違い」は摩擦を生む一方で、最大の創造の源でもあるということです。CoIUでは、その「違い」を学びと価値創造のエンジンに変える教育と研究を進めていきます。
研究関心
私の研究は大きく三つの柱で構成され、デジタル×地域実装を推進する民間実務と強く連動しています。
ダイバーシティと 公共政策
自治体や企業でダイバーシティ(DEI:多様性・公正・包摂)をどのように制度化し、現場の実践につなげるかを研究しています。導入プロセスで生じやすい「反発」や「誤解」をどう乗り越えるか、合意形成や対話のデザインに関心があります。住民参加、行政の部局横断連携、企業・NPOとの協働を設計し、政策の実装段階で起きがちな想定外を減らすことを目指します。
エリアマネジメントと 共創ガバナンス
郊外住宅地や都心部で、住民・行政・民間が持続可能に地域を運営するための支援のかたちを比較研究しています。地域課題の可視化、資源の再分配、コミュニティ運営の手法を整理し、共創拠点づくりや評価設計に反映しています。実務では、地域のプレイヤーが動き出しやすい仕組み(情報発信/関係人口づくり/小規模実証)を伴走的に設計しています。
社会運動と若者の エンパワーメント
若者がソーシャルメディアなどを活用して社会課題の当事者として声を上げ、政策提言やプロジェクト運営に関わるための「場」と「仕組み」を探究しています。ローカルな実装とグローバルな課題を結び直す学習デザインに取り組んでいます。
ダイバーシティとイノベーションの現代的意義
ダイバーシティは、単なる良いことや倫理的要請にとどまらず、イノベーションの核心に関わる「戦略」だと考えます。
現代社会は、人口構造の変化、国際化、気候危機や感染症、急速なデジタル化とAIの進展など、複合的で連鎖的な課題(いわゆるポリクライシス)に直面しています。こうした不確実性の高い環境では、単一の前提や固定観念に依存する意思決定は、見落としや偏りを招きます。異なる経験や視点を持つ人々が協働することで、問題の枠組み自体を問い直し、想像していなかった選択肢が立ち上がります。これが、ダイバーシティがイノベーションを生む最も根源的な理由です。
行政の文脈
子育て、健康、医療、観光、防災といった領域横断の課題に対して、当事者の声を早い段階から取り込み、部局を越えた連携を進めることが重要です。高齢者、障害のある方、外国にルーツを持つ方、子育て当事者、若者など、多様な視点を政策立案に組み込むことで、実装段階での「想定外」を減らし、費用対効果や受益者満足度を高められます。さらに、データ活用やサービスデザインの手法を掛け合わせることで、行政サービスのUX(利用者体験)を磨き、納得感のある合意形成に近づけます。
企業の文脈
ダイバーシティは「新しい市場の気づき」「包摂的なプロダクト・サービス設計」「リスク管理とレジリエンスの向上」に直結します。多様な人材がいることで、意思決定の盲点が減り、イノベーションの量と質が共に高まります。特にAIの時代には、学習データの偏りやアルゴリズムの公平性が企業価値に直結します。開発段階から多様なユーザーの声を取り込み、評価指標も公平性やアクセシビリティを含むものに再設計する必要があります。ダイバーシティは、企業にとって社会からの信頼と新たな成長を同時に生む基盤なのです。
学問としてのダイバーシティの先進性
第一に、学際性です。
社会学、政治学、経営学、心理学、デザイン、教育、情報科学が横断的に結びつき、ミクロ(個人の経験)―メゾ(組織・地域)―マクロ(制度・政策)をつなぐ視座を提供します。
第二に、方法論の多様性です。
統計や社会調査に加えて、当事者参画型リサーチ、フィールド実験、アクションリサーチを組み合わせ、知の創出と現場の変化を同時に目指します。
第三に、実装志向です。
抽象理論に留まらず、制度設計、サービスデザイン、組織開発、政策評価など、具体的な変化を生む使える学びを重視します。
第四に、時代的必然性です。
多様な人がともに働き、暮らす社会で、公平性と包摂を欠く設計は、企業や行政にとってコストとリスクの増大につながります。だからこそ今、ダイバーシティは基礎リリテラシーであり、イノベーションの土台なのです。
授業「ダイバーシティ」のねらい
本授業では、「違いを資源化する」ことを意識して、個人と社会の両面からダイバーシティを学びます。CoIUの建学の精神「共に文明を問い、未来を共創する」に沿い、〈理論―対話―実践〉の往還を重ね、学びを社会の変化につなげます。知識の習得にとどまらず、観察・対話・小さな試行(プロトタイピング)・振り返りを繰り返し、現場で使える視点とスキルを獲得します。
基礎理解
ダイバーシティ/インクルージョンの概念、国内外の制度と歴史的背景を理解します。インターセクショナリティの視点を取り入れ、複合する「違い」を捉えます。
自己理解
無意識のバイアスを知り、言葉・画像・空間デザイン・制度にどう表れるかを体験的に学びます。心理的安全性を意識した対話の作法を身につけます。
観察と可視化
地域・組織の課題を、データと現場観察から見取り図に落とし込みます。バリアと機会を特定し、優先順位付けを行います。
対話と合意形成
立場の異なる人同士の対話設計、論点整理、モデレーションの初歩を学びます。対立が生まれた際の橋渡しの技法も扱います。
小さく試す
現実の場面に合わせて「小さな実験」を設計し、検証→改善の循環を回します。失敗から学ぶリフレクションを重視します。
倫理と配慮
当事者性・プライバシー・アクセシビリティに配慮した関わり方を身につけます。
社会実装の視点
地域の現場(行政・企業・NPO・地域)と接続し、実際に地域に役立つプロジェクトを生み出します。
イノベーション接続
行政ではサービスデザインや業務プロセス改善、企業では新市場発見・プロダクト改善・組織開発への接続を設計します。
評価指標づくり
成果を「受益者の満足」「到達範囲」「公平性」「費用対効果」「学習の広がり」等で測るKPI(主要業績評価指標)をつくります。
どんな学生と特に一緒に学びたいか?
専攻やスキルは問いません。「社会を良くしたい」という素朴な気持ちがあれば十分です。理系・文系、デザイン・経営・公共政策、海外経験の有無、すべてがチームの強みになります。特に次のような皆さんを歓迎します。
- 〈理論―対話―実践〉を行き来し、自分の関心を社会の変化に結びつけたい人
- 違いに出会ったとき、急いで結論を出さず、相手の文脈を想像しながら耳を傾けられる人
- 小さく試して学ぶこと(プロトタイピング)や、失敗からの学びを大切にできる人
- 地域に足を運び、多様な現場(行政・企業・NPO・市民)と協働することを楽しめる人
- 自らの「使命」や「信念」を言葉にし、他者と共有しながら価値を創造したい人
将来的に、新たな視点を活かして地方創生の担い手となりたい方、自治体職員として住民とサービスを改善したい方、企業で新規事業や組織開発を担いインクルーシブな設計で競争力を高めたい方、NPOや地域団体で当事者の声を生かしたプロジェクトを広げたい方、教育・医療・福祉の現場で実践知を理論と結び付けたい方などにとってはワクワクする授業となるはずです。もちろん、自分なりのテーマを、授業や演習の中でこれから仲間と一緒に探っていきたい方も歓迎です。学習環境に関する配慮事項などがあれば、受講前・受講中に関わらず、遠慮なくご相談ください。誰も取り残さない学びをつくっていきたいと思います。
社会連携・共同研究のご案内
行政・企業・NPO・地域コミュニティの皆さまと授業や研究の連携をご一緒できれば嬉しく思います。デジタル×地方創生、地域の共創拠点づくり、官民協働のプロジェクト組成、エリアマネジメントの評価設計、ダイバーシティの組織実装、若者のエンパワーメントなどが主な協働テーマです。関心のある方は、ぜひCoIU事務局を通じてご連絡いただければ幸いです。
Message
CoIUの建学の精神は、「共に文明を問い、未来を共創する」です。
私は、教育・研究・社会連携を通じて、「違い」が交わるときに生まれる可能性を形にしていきたいと考えています。ダイバーシティを、誰かの配慮で終わらせず、社会と組織のイノベーションにつながる戦略へ。皆さんと一緒に、学びを社会の変化につなげていけたら嬉しいです。
